「Column 深江 園子」カテゴリーアーカイブ

冬道

事務仕事の日でした。札幌の街は、気温が高めで雪が溶けた日中、除排雪が出来ていない中小路は車も人も大変です。車椅子の方がデコボコの道で交差点を上手く渡れず、何度も方向を変えながら難儀されています。お手伝いをしたのですが、成人の方の車椅子は雪道では特に重く、私の全力で漸く動いてくれました。母のように杖が必要な方や車椅子、ベビーカーは本当に大変です。除雪も大変でしょうけれど、せめて公道はもう少し安全に誰もが通れるような冬であって欲しいと思います。
   seiko

31.「お取り寄せ」とお菓子

女性誌の定番テーマ、「お取り寄せ」。その中にはお菓子も欠かせませんが、日持ちがする、冷・解凍に強い、こわれにくいなどさまざまな制約がつきもの。特に顔の見えないネット通販では、買った人の状況がどうであっても間違いないよう、念には念を入れた状態で届かなくてはなりません。通販商品にチーズケーキが多いのも、実はこうした制約をクリアできるから。多くのチーズケーキのベースになるクリームチーズには離水を防ぐための安定剤が少量含まれていて、ケーキの冷凍に向くのです。そんなわけで、製造の現場では「宅配でもおいしいお菓子」づくりに頭を悩ませています。

でも、困った時は昔の智恵にちゃんと答えがあるもの。冷凍便などない時代、旅に持って行ったというのが、「ガトー・ド・ヴォワイヤージュ」と呼ばれるお菓子たち。たとえばガトーバスクや、ケークの類がそうです。私が昔習った同名のお菓子は、焼いて1〜2日経ったほうがおいしいアーモンド粉入りの焼き菓子。表面にうすくジャムを塗った上、べたつかないよう砂糖衣を掛けてオーブンで乾かしていました。

健康的で種々の効能あらたかな甘味料・トレハロースをはじめとする各種の技術は、「本来日持ちしないものを長くおいしいままで」というニーズを驚くべき完璧さで満たしてくれました。けれど本当に必要な場面以外でも使われるようになった今、本来の味覚とはどこかが違う気がしてなりません。オーブンから漂う匂いやフレッシュな食感、熟成させてこそ出せるまろみのある重厚な味……。そんな目に見えないものこそ、きっと食べものがくれる癒しとエナジーなのです。

魔法はいらない、人の手のぬくもりのあるお菓子がいい。フルーツケーキ、シュトレンしかり、昔の智恵で日持ちがするお菓子は、秋から冬のこれからが食べ頃です。

30.シュクレ・サレ

ざらめせんべいのように甘しょっぱい味というのは、誰にでもおいしく感じられるものですね。

以前、日本女性と結婚したイタリア人の料理人に、日本は料理に砂糖を入れるから…と言われてハッとしました。砂糖やみりんで主菜を甘くするのは、アジア特有だといいます。ポルト酒や果物の甘みを使う料理はOKでも、すきやきや肉じゃがのように「砂糖と醤油で煮込む」のが衝撃だったとか。

一方、洋菓子にはシュクレ・サレ(甘くてしょっぱい)の味があり、日本でも好まれています。クイニー・アマンなど、まさに塩があってのおいしさ。地方菓子にあるということは、シュクレ・サレな味はその土地の素材に由来しているのでしょう。

C.B.S=キャラメル・ブール(バター)・サレ(塩)の商標を持つ「アンリ・ルルー」の塩キャラメルも、シュクレ・サレなお菓子。ローマ時代から塩田があったという「ゲランドの塩」の産地・ブルターニュのお店で、土地では有塩バターがよく使われるそうです。

バターの香り高いなめらかなキャラメルは、チョコレートとキャラメルでフランス指折りのルルー氏ならではの一品。来日時に笑顔で店頭に立つルルーさんの姿を見ると、海岸に村が点在する鄙びたリゾート地のお店が東京のデパ地下で引っ張りだこの景色に、何か不思議な感じもします。生まれ故郷から移植されてもなお、絶対的においしいのは確かですが…。

アンジュのキャラメルは、作り手が度々訪れる、美術館のある漁村・岩内(いわない)の海洋深層水を使った「塩匠・粉雪」と、道産生クリームとバター、そしてばれいしょ(ジャガイモ)でんぷんから作った旭川産の麦芽水飴でできています。あまり焦がさずに白っぽく仕上げているのも品が良く、舌にのせるとスッと溶けてなくなってしまう、癖のない後味。あまりに溶けやすいため、厨房では冷凍で保管しなければなりません。厨房にあるゲランドの塩でなく、敢えて地元の塩の中から選んだのは、海と草地のある沿岸地帯を身近に感じているからなのでしょう。

味の探求の一角に「素材の背景」を持つ品が案外少ない中で、この小さな貝の形のキャラメルは、ここだけの小さな愉しみです。

29.バレンタインは何の日?

昨年あたりから予見された、「本命チョコ不在」のバレンタイン動向。

国内チョコレート業界の販売額は数年前から頭打ちなのに、ここ数年人気のヨーロッパの有名店ブランドは、一粒2000円でも完売。ネットやデパート催事の品揃えはヨーロッパも驚くほどです。ということは、男性のためのチョコが減っているのでは? というのが今年の観察結果でした。「女性が男性に愛を告白する」という日本の風習はティーンエイジャーを残して役目を終え、バレンタインは「自分にごほうび」の日になるのかも。もっとも「上司に贈るカードの書き方」なんていう海外のサイトを見ると、女性の義理と人情には国境なし、のようですね。

以前この季節にご紹介したフェアトレード品(peopletree.com ほか)も定着し、カオカ社のオーガニッククーベルチュールのほかヴァローナ社からも「カオグランデ」が発売されています。こうした商品は、「作り手に賛同する」買い方を教えてくれます。以前は食べものを品質で選ぶことに熱心で、それ以外にものさしを持たなかった私ですが、今はできるだけ好きな売り手のいるところで買います。こういうやり方は懐古的だけれど、誰がどんな風に作ったか「わけのわかった」ものを食べる手段でもある。そんな気がします。

アンジュの安心のひとつは、いつも同じ材料、同じ考え方でお菓子を作っていること。新しい味をいたずらに追いかけたりせず、新鮮さが持ち味のものを日持ちさせるような間違った工夫もしません。たとえばチョコレートのお菓子も、パリッとしたコーティングチョコレートをかければいつまでもピカピカのはずなのに、口あたりを柔らかくするためにガナッシュで仕上げるものが多いのです。バレンタイン新商品「ブラン・エ・ノワール」は、小さなピラミッド型のガトーショコラ。歯をあてるとソフトなチョコレートの上がけが香り、中から一瞬、品のいい白胡椒が広がっては甘さに溶けてゆきます。

こんな大人の愉しみは、友チョコよりおしゃれな恋人と分け合いたい。そんな気分にさせてくれる味わい。丸井今井札幌店「きたきっちん」で限定発売です。

 

28.クリスマスツリーの今昔

以前、「クリスマスミュージアム」という場所が函館にありました。レンガ倉庫群のひとつに回廊のような展示室があって、昔ながらのクリスマスの風物を国別に並べていたのです。中でも興味深かったのは、ツリーの歴史。冬至=太陽が姿を隠す日は、古代の人々にとって怖ろしいものでした。暗く寒い夜が支配する季節の過ぎ越しは、神話や宗教の中で「死と再生」の象徴になり、やがてキリスト教の祝祭に受け継がれたといいます。その頃から、常緑樹は絶えない生命の象徴と考えられていたようです。

展示によれば、ツリーにオーナメントを飾るようになったのは、16世紀ころだということでした。宗教者ルターが常緑樹の間に輝く星を見て樅の木にキャンドルを飾った、あるいはアダムとイブの聖史劇の中で樅の木にリンゴを飾った、樅の木の小人に飾り物を供えたなど、諸説多々。当時のツリーの復元品は、枝にクリップでろうそく受けをつけて白いキャンドルをともしただけの素朴さ。それが何とも清々しくて、まるで人々が寄り集まって火を囲んだ姿が見えるようです。その後ガラス玉のオーナメントが生まれ、アメリカでセルロイド製が作られるようになったり、第二次大戦中は質素なものに変わったりしながら、19世紀末に日本にも伝わったそうです。このミュージアムはもうありませんが、今ではレンガ倉庫群の目の前に、生木を使った「本物の」ツリーがカナダ・ハリファクスのツリーファームから届きます。

21世紀のツリーはといえば、やはりエコロジーを意識したもの。ツリーの畑(!)で環境保全の視点で栽培された木には、認定ラベルがついていると聞きました。NY名物のロックフェラーセンターのツリーも、LEDライトに変わったとニュースが報じています。世界的な行事だけに、昔ながらとはいかないようですね…。

所変わってアンジュでは、11月末から恒例のクリスマス支度が始まっています。ツリーになるもみの木は使い捨てでなく、外で一年養生してまた秋が来ると鉢に上げて使うのです。枝を飾るのは、家族や友人たちから贈られたオーナメント。そのひとつひとつに楽しい思い出がこもっているのだそうです。、

冬の朝が雪の照り返しでまぶしくなる頃、札幌のクリスマスはやってきます。

 

窓の外にほら、また雪が降ってきました。


27.コンフィチュール

札幌の街路樹はナナカマドが多く、それが赤や金の葉を落とし始めると、札幌の秋もたけなわです。果樹園は夏のベリー類が一段落すると、9月のプラム、プルーン、ぶどう、10月の梨、11月の晩生リンゴまで休みなし。北国の秋は、旬に追われて駆け足で過ぎるのです。

果物の色と味をとどめる食べ物=ジャムをフランスふうにコンフィチュールと呼ぶのはここ数年のこと。当初は「ジャムとどう違うの?」ととまどう声もありましたが、お菓子屋さんで広まるにつれ、私たちお客の耳にもすっかりなじんできましたね。

この呼び名、単なる英語とフランス語の呼び名の違い…のはずでしたが、日本では特に、短時間で炊き上げて鮮やかな色と香りを残したタイプを指すことが多いようです。果肉の形が残るプレザーブスタイルや、砂糖のかわりに果汁で煮詰めたもの、ジュレのなかにフルーツを浮かべたもの、果物にスパイスやハーブ、チョコレートを組み合わせたお菓子的発想のものなどが注目されています。数々のスイーツブームを仕掛けてきた伊勢丹本店がフランス・アルザスのパティスリー「クリスティーヌ・フェルベール」のコンフィチュールを紹介したのも、ブームのきっかけでした。(今ではアルザスの品が日本各地のデパートに!おいしくて嬉しいけれど、ちょっと不思議なことです。)

アンジュでは、札幌市南区の果樹園数軒に通い、その時々の旬の果実をジャムにしています。この地区の果樹園は観光客のつみ取り果樹園が多いため、早摘みでなく、木の上で完熟した状態で手に入れることができます。熟度を見計らって天気予報をにらみながら日を決め、一面に鈴なりになったイチゴやプラムを選りすぐり、その日の内に加工します。たくさんの試作を通してこれと思う品種を探し出し、おいしくするのが作り手の腕の見せどころ。農家の仕事は「まるで年一回の賭けのよう」と言いますが、アンジュのコンフィチュールづくりも年に一度しかチャンスのない探求の繰り返しで、5種類になりました。

先日、古い本の頁から小さな紅葉が出てきました。押し葉をつまんだ手でその頁を繰っていたら、ふっとその頃の記憶がよみがえります。キラキラと透明なコンフィチュールも、もしかすると陽の光や夏の匂いを思い出すためにあるのかもしれませんね。

26.ウエディングのお菓子

something new, something old, something blue…

新しいもの、古いもの、青いもの、などと、結婚式には不思議で楽しい約束事がありますね。では、結婚祝いのお菓子には、どんな習わしがあるのでしょう?

イギリス式のウエディングケーキは、その昔女王様が始めた様式にならい「三段重ね」がお約束。純白の砂糖衣の中には、日持ちのするフルーツケーキが隠れています。下の段は列席者と分かち合い、真ん中の段はこられなかったお客様へのお土産。そして最上段は結婚1周年や、ベビーのお誕生までとっておくこともあったそうです。

これはまさに、熟成味を楽しむお菓子、フルーツケーキだから成り立つ習慣です。と言っても、外側が空気に触れているのではいけません。そこで、ケーキの外側に粉砂糖と卵白少量を混ぜた砂糖衣、ロイヤルアイシングで覆って乾燥を防ぎます。これが発展したのが、故ダイアナ妃の婚礼時に日本にも知られるようになった、正統派・ロイヤルスタイルのウエディングケーキ。アイシングは、乾くとまるで卵の殻のように白く堅く、中のケーキを守り、低湿なところでは長期保存に耐えてくれます。ちなみに砂糖衣をする前に、おいしいマジパンペーストで薄くカバーすると一層おいしく、表面が美しく仕上がります。

何でも急いで、できたてを…の価値観が主流の日本でも、ロハスのような「ゆっくりを楽しむ」人が増えています。人と人のつながりのように、年月を経て培われる味わいが、人生の節目を祝うたべものには、ふさわしい気がしますね。

アンジュのお客様の中には、披露宴のほかに自宅で小さなウエディングパーティを開く方も増えています。砂糖衣のフルーツケーキはもちろん、引き出物にはチョコレートと極上ドライフルーツのハーモニーが見事な「コンチェルト」や、輝く金色のパイナップルが切なく甘い「マドモアゼルヴィオラ」を。季節はまさにジューンブライド。お客様が、親しい方と分かち合うその一口に、「あなたの小さな喜びになりたくて…」というアンジュの心が重なりますように。

 

25.お砂糖は何からつくる?

フルーツや野菜には産地のブランドがあふれていますが、お砂糖の産地はどこでしょう。沖縄、奄美…あとは?なかなか浮かびませんね。

日本のお砂糖のもとは、オーストラリアやタイなど外国のサトウキビが6割。残りが国産で、うち8割が北海道産です。「えっ、寒い土地でサトウキビ?」いえいえ、北のお砂糖と言えば、原料作物はビート、別名はてんさい、サトウダイコン。新千歳空港に飛行機で降りていく時、パッチワークの畑のなかで目立って青々したピースがあったら、きっとそれはビート畑です。ジャガイモや小麦と同じ畑で交互に作るこの大きなカブは、ヨーロッパ北部原産。そのお砂糖が、洋菓子をおいしくしてきたのです。

ビートと旧植民地のサトウキビ、2つの原料に恵まれたヨーロッパですから、洋菓子には実にいろいろなお砂糖が使われます。

白いお砂糖は、黒っぽい蜜を取り除いて作る分蜜糖。サトウキビの含蜜糖(分離した蜜を使うお砂糖)は、カソナードなどといってコーヒーにも入れる茶色いお砂糖。ベルジョワーズはビートの含蜜糖で、タルトやパイ菓子にふりかけて風味を添えます。骨太で暖かみのある味のキビ砂糖は、焼き菓子やショコラをエキゾチックな味にまとめたいときに。真っ白なあられ糖は、中身のないプチシュー、シューケットに欠かせませんね。そういえば、アンジュのガレットやフィグのフィリングのお砂糖も、これからカソナードなどに変更を検討中だそう。これらのお菓子のファンなら、お砂糖の製法による風味の違いに気づかれるかも知れませんね。

白いお砂糖にはもうひとつ、飴という別の顔があります。ケーキを飾る飴細工は、少量の水と白砂糖を高温で熱したもの。お菓子の表面をパリッと香ばしくするキャラメリゼも、混じりけのない白いお砂糖を焦がすことで、キラキラと透明感が出るのです。お砂糖の純度が高いと甘さが舌に長く残らず、いわゆるキレのいい甘さになります。そこでアンジュではほぼすべてのお菓子に、特に純度を高めて微粒状にした「シュクレーヌ」というお砂糖を使っています。ほんとうは原価を心配せずに済むお菓子教室で使われるのですが、こんな風に見えないところに贅沢をしているのですね。すぐにはわからなくても、ふと思い出しては欲しくなる味わいには、お砂糖の働きも一役買っているようです。


24.チョコレートが描く物語

あげる皆さんももらう皆さんも、そろそろですね、バレンタイン。この1〜2年でスーパーやコンビニで買う板チョコも70%以上、99%まで登場し、ほろ苦くて香りの強いハイカカオ系をみんなが食べ慣れてきたのは確かなようです。日本での火付け役は、フランス・ヴァローナ社が発売した「グラン・クリュ」シリーズあたりでしょう。これは、カカオの産地別に味の個性を打ち出したクーベルチュール(製菓用チョコレート)。その頃から、今のようなカカオの個性を生かしたお菓子も定着してきました。ショコラティエの中にはカカオ産地に出向いたり、契約農園を持つ人もいます。それが中南米、東南アジア、アフリカといった遠い産地の土や農業者への関心になり、品種にこだわったり有機カカオを使ったりと、テーマとともに選ぶ楽しみもさまざまに広がってきました。その中でひとつ、チョコ好きなら知っておきたいジャンルが「フェアトレードチョコレート」。これは農園で働く子どもや女性が報われるよう、相場価格でなく「適正な」価格で原料を仕入れて作られるもの。タブレット(板チョコ)などがネットで買えるので、検索してみてください。

アンジュで使うチョコレートは、リンツ社やオペラ社のクーベルチュール。オーナーの好みを反映して、味のバランスと香りの良さを兼ね備えた味わいです。キャラメリゼした洋ナシ入りの生チョコ、ポワール・オ・ショコラ。カカオの広がりのあとで、ふっと白コショウの香りが爽やかなケーキ、プワブル・エ・ショコラなど、毎年同じ味を贈れる関係は、きっと幸せですね。作り手、使い手、そして贈り手の思いをこめたチョコレート。今年のシーズン、あなたはどんな物語を選びますか?

23.スパイスは思い出の香り

スパイス、と聞いて真っ先に浮かぶのは、お菓子でなくお料理でしょうか?

でもスパイスの中で辛みを求めて使われるのはごく一部。ナツメグ、シナモン、クローブ、パリカ、ジンジャー…フランスではパン・デピスやタルト・ポンムなど、お菓子にもスパイスの香りは欠かせません。何しろコショウなどは大航海時代にもたらされたとき、保存料でもあり宝物のように扱われていたそうですから、それを料理やお菓子に使うことは、当時はさぞ贅沢なことだったのでしょう。それが今ではヨーロッパの料理に欠かせない存在です。ドイツパンを焼く職人さんたちには、「スパイスのブレンドが、その家(店)の個性のひとつ」と教わりました。フランスでマルシェを見て歩いたときも、一カ所にたいてい一軒はスパイスとハーブのお店が出ています。そしてどの店も、独自のブレンドを売りにしているのです。

スパイスを使ったお菓子と言えば、何年か前に札幌でシュトレンを広めようと雑誌の企画をたてました。東京ならもっといろいろなシュトレンが手に入るし、買い集めることも簡単です。でも、札幌には寒くて暗い季節の中でクリスマスを待つという「心の背景」があるから、シュトレンが格別似合うのだと私は思っています。

ロケ先としてお世話になったドイツ婦人のお家で撮影をした日、シュトレンを焼く匂いに、ブロンドの小さな息子さんが帰ってきて言いました。「お母さん、クリスマスの匂いがする!」小学校一、二年生くらいの彼は、毎年おばあちゃまが送ってくれるシュトレンを食べているのだそう。スパイスの香りは、人に何かしら懐かしいもの —— 夏の陽の温もりや昔の記憶など—をよみがえらせるのかもしれません。きっと小さな彼の記憶には、楽しいクリスマスとともにおばあちゃまのスパイスの香りがいつまでも残るのでしょう。

アンジュでスパイスを使ったお菓子と言えば、イギリス風のスパイスケーキ、今が旬のアップルパイやクリスマスのシュトレン。香りに敏感なお店ですからナツメグやメースなど、ごく少量ですが印象的な使い方をしています。優しくて、食べた瞬間にふっと何かを思い出させる、そんな香りです。