23.スパイスは思い出の香り

スパイス、と聞いて真っ先に浮かぶのは、お菓子でなくお料理でしょうか?

でもスパイスの中で辛みを求めて使われるのはごく一部。ナツメグ、シナモン、クローブ、パリカ、ジンジャー…フランスではパン・デピスやタルト・ポンムなど、お菓子にもスパイスの香りは欠かせません。何しろコショウなどは大航海時代にもたらされたとき、保存料でもあり宝物のように扱われていたそうですから、それを料理やお菓子に使うことは、当時はさぞ贅沢なことだったのでしょう。それが今ではヨーロッパの料理に欠かせない存在です。ドイツパンを焼く職人さんたちには、「スパイスのブレンドが、その家(店)の個性のひとつ」と教わりました。フランスでマルシェを見て歩いたときも、一カ所にたいてい一軒はスパイスとハーブのお店が出ています。そしてどの店も、独自のブレンドを売りにしているのです。

スパイスを使ったお菓子と言えば、何年か前に札幌でシュトレンを広めようと雑誌の企画をたてました。東京ならもっといろいろなシュトレンが手に入るし、買い集めることも簡単です。でも、札幌には寒くて暗い季節の中でクリスマスを待つという「心の背景」があるから、シュトレンが格別似合うのだと私は思っています。

ロケ先としてお世話になったドイツ婦人のお家で撮影をした日、シュトレンを焼く匂いに、ブロンドの小さな息子さんが帰ってきて言いました。「お母さん、クリスマスの匂いがする!」小学校一、二年生くらいの彼は、毎年おばあちゃまが送ってくれるシュトレンを食べているのだそう。スパイスの香りは、人に何かしら懐かしいもの —— 夏の陽の温もりや昔の記憶など—をよみがえらせるのかもしれません。きっと小さな彼の記憶には、楽しいクリスマスとともにおばあちゃまのスパイスの香りがいつまでも残るのでしょう。

アンジュでスパイスを使ったお菓子と言えば、イギリス風のスパイスケーキ、今が旬のアップルパイやクリスマスのシュトレン。香りに敏感なお店ですからナツメグやメースなど、ごく少量ですが印象的な使い方をしています。優しくて、食べた瞬間にふっと何かを思い出させる、そんな香りです。


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