お菓子の世界で注目の最新キーワードから、スイーツの「今」を読み解きます。
<11>チョコレート菓子の究極・ザッハトルテ

ザッハトルテといえば、ウィーンのホテルザッハが本家。
もともとは19世紀の政治家メッテルニヒのお抱え料理人、エドワルド・ザッハーのオリジナルでした。1832年のウィーン会議の際、メッテルニヒはヨーロッパ列強の特使たちをもてなす食事の締めくくりに、このトルテ(お菓子)を作らせたといいます。戦争後の領土問題という丁々発止の外交の場で、食後の語らいをなごやかに盛り上げ、テーブルに長く引きとめてしまうおいしいお菓子は、ひとつの「秘密兵器」だったのでしょうね。

その後ホテルザッハの息子と、ウィーン王室御用達のチョコレート店、デメルの娘が結婚したことからレシピが流出し、2店の間でこのお菓子を巡る裁判沙汰が起きたのです。この事件、まるでロミオとジュリエット?と想像をたくましくしてしまうのですが、幸い「どちらが勝ってもこのお菓子が食べられなくなる」と危ぶんだ愛好家たちの嘆願書まで上申され、「甘い7年戦争」はとうとう終結、二つのお店でザッハトルテが売られることになりました。

今では日本でもさまざまな「ザッハトルテ」が味わえるようになりましたが、チョコレートの上がけ(ショコラーデングラズール)の配合やアプリコットジャムを使うか使わないか、といった微妙な違いがあるのは、2店のどちらの味に倣ったかによるようです。

アンジュのザッハトルテは、ココアでなくチョコレートを溶かし入れた美味しい上がけを使う、こくのある作り方。モナコのグレース王妃も愛し、ホテルザッハでは妃の滞在中に特別大きなトルテを献上したというエピソードもあるこの味を、コーヒーと共に優雅に頂きたいものです。